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春の季語は?俳句や手紙に使える美しい言葉をご紹介

春の季語は?俳句や手紙に使える美しい言葉をご紹介

LIFE STYLE

近年はテレビ番組の影響もあって俳句ブームが起こり、趣味で俳句や和歌を詠んだり、気持ちのこもった手紙を書いたりする楽しさに目覚めた人もいるでしょう。

俳句や和歌、手紙を季節感あるものにするために「季語」が役立つのをご存知でしょうか。季語とは、春夏秋冬と新年の計5つの季節を象徴的に表現する言葉です。植物や天候、動物、行事など、その季節らしさを感じさせるさまざまな種類の季語があります。

和歌や手紙には必ずしも季語が必要ではありませんが、俳句で季語にあたる語を使うと、より季節にあった味わいを出せるでしょう。今回は、「春」の季語を多数ご紹介します。

時候・天文・地理に関する春の季語

立春(2月4日頃)から立夏(5月6日頃)の前日までが「春」です。「三春」とも呼び、「初春・仲春・晩春」に分かれています。まずは春の時候や天文、地理に関する季語を3つずつご紹介します。


時候
・麗らか(うららか)
「麗らか(うららか)」は、うるわしく和やかに日が照り、さまざまなものが輝く様子を表す季語です。穏やかで、明るい気持ちになる響きを持っています。


明治期の文壇に大きな影響を与えた歌人、俳人として知られる正岡子規もこの言葉を用いています。『子規句集』に収められている「うらゝかや女つれだつ嵯峨御堂」という俳句です。


・春暁(しゅんぎょう)
「春暁」は春の夜明け、日の出前の未明を表す季語です。夜が明ける気配がありつつも、空が明るくなる前の状態なので、まだ薄暗い時間の様子を感じさせます。


夜明けと聞くと清少納言の『枕草子』に登場する「春は、あけぼの」を思い出す方もいるかもしれませんが、「曙(あけぼの)」は「暁(あかつき)」よりも遅い時間で、日の出前を指します。


・長閑(のどか)
「長閑(のどか)」という季語は、春の日ののんびりとした様子を表します。日が長くなる春は、時間もどこかゆるやかに流れていくように感じるでしょう。


俳句修行をしていたことで知られる俳人の小林一茶も、この季語を用いた句を詠みました。『八番日記』に登場する「長閑さや浅間のけぶり昼の月」というものです。一茶が見た景色が浮かんでくるようです。


天文
・朧月(おぼろづき)
「朧月(おぼろづき)」は、春の夜空に浮かぶおぼろげな月を表す季語です。澄んだ光を放つ秋の月に対して、春の月はベールがかかったような見え方をします。


春という季節は日中と夜の気温差が大きいため、日中の暖かい空気が夜に冷えて水蒸気となります。月の周りを囲む水蒸気が月明りに照らされると、おぼろげに見えるのです。江戸時代前期の俳諧師、松尾芭蕉も朧月を用いた俳句を数多く詠んでいます。


・春雨(はるさめ)
「春雨(はるさめ)」は、こまやかに降り続く春の雨を表す季語です。雨によって木や花の芽がふくらみ、生き物たちも活動を始める様子がイメージできます。晴れた春の日もいいものですが、乾いた空気を潤してくれる春雨もまた、新しい季節の訪れを告げているようです。


たとえば芭蕉の『草の道』に登場する俳句、「春雨や蓬(よもぎ)をのばす草の道」は、雨で生き生きとし始める植物の様子を感じさせます。


・東風(こち)
「東風(こち)」は、春に吹く東風を表す季語です。冬型の気圧配置が崩れて、太平洋から大陸へと風が吹きます。東風は暖かいため雪を溶かしたり梅の花を咲かせたりしますが、強風となって時化(しけ)を呼ぶこともある風です。


地理
・春の海(はるのうみ)
「春の海」は穏やかな海を表す季語です。江戸時代中期の俳人、与謝蕪村は「春の海終日(ひねもす)のたりのたりかな」という句を詠んでいます。季語だけでなく「のたりのたり」という言葉からも波の穏やかさを感じられる一句です。


・春の水(はるのみず)
「春の水(はるのみず)」は、淡水に対して使う春の季語です。春は雪解け水や雨で川や池の水かさが増し、水面が光輝きます。水温も上がり、さまざまな生き物の命を育む存在と言えるでしょう。


・山笑ふ(やまわらう)
「山笑ふ(やまわらう)」は、草木や花が芽吹き、鳥がさえずる春の山を擬人化した季語です。ちなみに夏の山は「山滴る」、秋の山なら「山装ふ」、冬の山だと「山眠る」という季語があります。


一口に山と言っても、季節によって表情が全く違うということをあらためて感じられる季語です。

生活・行事に関する春の季語

ここでは生活や行事に関する春の季語をご紹介します。


生活
・針供養(はりくよう)
「針供養(はりくよう)」とは、1年の間に折れてしまったり、古くなったりして使えなくなった針を集めて供養する日のことです。2月8日が針供養とされ、この日は針仕事を休んで裁縫の上達を祈願します。


・鳴鳥狩(ないとがり)
「鳴鳥狩(ないとがり)」は初春の季語です。冬の季語には「鷹狩」がありますが、春になると夜に鳥が鳴いた場所を確かめて、早朝にその鳥を狩ることから「鳴鳥狩」というようになりました。


・梅見(うめみ)
春に眺めて楽しめるのは、桜だけではありません。梅は奈良時代に日本へもたらされたとされています。早春に他の花に先駆けて咲く梅は、香り高く気品があるため人々に好まれてきました。季語としても知っておくと、味わい深い俳句や文章が書けそうです。


行事
・遍路(へんろ)
意外かもしれませんが、四国遍路を指す「遍路(へんろ)」も春の季語です。弘法大師が巡錫(じゅんしゃく)した四国内にある八十八箇所の霊場を巡拝することを指します。桜が咲く四月頃を中心に、3~5月にかけて、白装束で数珠などを持ち、笠を被って巡ります。


・初午(はつうま)
「初午(はつうま)」は2月最初の午の日に稲荷神社で行われる祭礼で、「午祭」とも言います。京都の伏見稲荷や大阪の玉造、愛知の豊川稲荷など、各地の稲荷神社で行われる盛大な祭礼です。

動物・植物・食物に関する春の季語

次は動物、植物、食物に関する春の季語をご紹介します。


動物
・鳥帰る(とりかえる)
「鳥帰る(とりかえる)」は仲春の季語です。日本で越冬した雁や鴫、白鳥、鶴などの渡り鳥が北方へ去っていくことを表します。人間だけでなく渡り鳥にとっても、春は新しい季節の始まりなのでしょう。


・蛇穴を出づ(へびあなをいづ)
「蛇穴を出づ(へびあなをいづ)」とは、冬眠していた蛇が地上に出てくることを表す季語です。蛇は3月下旬から4月頃に穴から出て姿を見せますが、山地や東北以北ではこれよりも遅いようです。


俳人、小説家の高浜虚子は『五百句』の中で「穴を出る蛇を見て居る鴉(からす)かな」という句を詠んでいます。素朴ながらも、冬眠から目覚める生き物たちの姿がイメージできる俳句です。


・春駒(はるこま)
「春駒(はるこま)」とは、春の野原に放たれて、のびのびと遊ぶ馬を表す季語です。その中でも「若駒」といえば、一歳馬や二歳馬の若い馬を指します。春の暖かい日差しの中、楽しげに過ごす馬の様子が伝わってくる言葉です。


植物
・沈丁花(じんちょうげ)
中国原産の「沈丁花(じんちょうげ)」も春の季語です。鈍く光る卵形の葉と薄紅色の小さな花が特徴的で、庭や垣に植えられているのを見かける人も多いでしょう。鮮やかな香りで春の訪れを告げてくれます。


・金縷梅(まんさく)
山地に自生する落葉樹の「金縷梅(まんさく)」は、春一番に花を咲かせます。「まず咲く」が訛って「まんさく」になりました。早春の象徴ともいえる金縷梅は、黄色か赤色の細長い花弁を見せます。春の季語にぴったりです。


・たらの芽(たらのめ)
金縷梅と同じく山地に自生するたらの木の若芽は、「たらの芽(たらのめ)」という季語で表されます。繁殖力が強く枝のとげが鋭いこと、若芽にはやや苦味があることが特徴です。春の山菜としてご存知の人も多いでしょう。


食物
・桃の酒(もものさけ)
「桃の酒(もものさけ)」は、その名の通り桃の花を浸したお酒のこと。桃の節句に飲めば、病にかからず、顔の色つやも良くなると言われています。正岡子規は『寒山落木』の中で「薄赤き顔並びけり桃の酒」と詠んでいます。春の陽気とほろ酔い気分を楽しむ人々の様子が目に浮かぶ句です。


・春の筍(はるのたけのこ)
食べ物で季節を感じたい方にご紹介したい季語が「春の筍(はるのたけのこ)」です。筍の旬は初夏ですが、西日本では晩春に採られるものがあり、春の筍あるいは春筍と呼びます。孟宗竹という種類の筍が主で、香りが良く柔らかくて、おいしい春の味覚です。

明るく穏やかな春の季語

春の季語からは、穏やかさや明るさ、そして動植物の生命力を感じます。少し外を歩けば、定番の桜だけでなくさまざまな景色から、春らしさを感じるでしょう。

俳句を詠んだり手紙を書いたりしたい人は、ぜひ季語を用いて味わい深い表現方法を探してみてください。

編集&文/SANYO Style MAGAZINE編集部 写真提供/photoAC、ぱくたそ

 

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